不定期記事「探索者」

作成日:2014/09/22
最終更新日: 2016/07/23
作成者:しんどうまさゆき

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本節では、イタリア語およびロマンス諸語の数体系について考察したい。

<イタリア語の数体系>
イタリア語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

上ページに、イタリア語での1から100までの言い方が載っている。1〜20は20進法を、21以上は10進法を使用しているようだ。11から19までについては、語の構造が2種類ある。11から16までの「1の位+dici」形と、17、18、19の「dici+1の位」形だ。

手指を使った数の数え方と、10進法、12進法、20進法について考察したい。

本節では、英語およびゲルマン語派の数体系について考察したい。

上に挙げた2件の記事を思い出して頂きたい。「『指の節』型の数え上げによって、10進法、12進法、20進法を渾然一体に扱える」ことと「英語をはじめとしたゲルマン語派の数体系には、10進法、12進法、20進法が混合している特徴がある」のが要旨である。これを踏まえると、イタリア語の数体系には10進法、16進法、20進法が混合していると言えないだろうか。

「手指を使った数の数え方」の記事からの抜粋だが、指の節目と指先を使うと、16進法で数えられる。最大 16×16=256 までを数えられる。この16進法の数え方は、指の節を使った10進法、12進法、20進法の変種と言うことができる。なお、16進法での数え方の図解は以下に載っている。

Hexadecimal 1.3 Verbal and digital representations(Wikipedia:en)

16進法はイタリア人が元々持っていた慣習ではなく、異民族の方式のようだ。ローマ帝国建国以前からイタリア半島に住んでいた、エトルリア人という民族がいる。

Etruscan numerals(Wikipedia:en)

上ページにエトルリア語の数体系が載っている。エトルリア語では、10進法、16進法、20進法を併用したと思われるところがある。17、18、19の単語はそれぞれ「20から3」「20から2」「20から1」という構造をしている。

エトルリア(Wikipedia)

上ページによると「当時としては高い建築技術を持ち、その技術は都市国家ローマの建設にも活かされた」「王政ローマの7人の王の最後の3人はエトルリア系である」「鉄を輸出し古代ギリシアの国家と貿易を行っていた」。古代ギリシャや後のローマ帝国に大きな影響を与えた民族・国家だと言える。イタリア人の先祖であるローマ人は、エトルリア人の文明を吸収する際、彼等の数体系を理解する必要があっただろう。

ラテン語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

エトルリア語の16進法は、エトルリア語→ラテン語→イタリア語と残されていったようだ。ローマ帝国の公用語だったラテン語の数体系が上ページに詳しいので見ていこう。ラテン語では28、29、38、39、・・・98、99に表現が2通りある。「20+8」方式と「30から2」方式だ(ただし18、19は「20から2」「20から1」のみ。17、27、37、・・・はなぜか「10+7」方式のみ)。おそらく、「20+8」方式は元々のラテン語方式で、「30から2」方式はエトルリア語方式なのだろう。ローマ人同士ではラテン語方式で、ローマ人とエトルリア人との会話ならエトルリア語方式で数を呼んだと思われる。17、27、37、・・・がラテン語方式のみ、18、19がエトルリア語方式のみで不統一になっているのは、文化の摩擦を和らげるために両者の「譲り合い」を形式化したせいかもしれない。一般に、陸続きの国境付近では、二国の文化が併存し、時には融合するものだ。国境付近の住民には、二ヶ国語を話せる人が珍しくない。日本は島国なので、国境の内側と外側の文化が地図のとおりにはっきりと異なる。

<エトルリア人が16進法を使った理由>
貨幣(通貨)の単位(「コインの散歩道」中記事)

上ページの「目次 1.1 古代オリエント・ギリシャ」のリンクをたどると「貨幣が発生される前は、金や銀の重さの単位です」とのことだ。また「参考:ヨーロッパの重量単位」のリンクをたどると、古代アテネでは、ある重量単位の半分となる単位が階層的に設けてある。

エトルリアは紀元前10−紀元前4世紀ころまで、国家として独立していた。これは古代アテネが存続していた時期と重なっている。エトルリアと古代ギリシャが交易する際、金・銀の重さを量るため、古代アテネの重量単位を理解する必要があっただろう。階層的に2分割する単位系なので、16進法を用いて16分割や256分割をすることが合理的だったのかもしれない。また、エトルリア語はインド・ヨーロッパ語族とは異なる言語系統らしいので、16進法が民族の感性にたまたま合っていたのかもしれない(もっとも、エトルリア語の数体系には諸説あり、詳細は分からない。16進法と20進法を混合させていたように見えるが、断言はできない)。

<エトルリア語→ラテン語→イタリア語>
ところで、交易相手のギリシャは、紀元前6−紀元前1世紀の期間、金貨・銀貨を用いた。ただし、同じ名前の通貨(例えばスタータ)でも都市によって重量が異なっていた。貨幣単位と重量単位を併用する必要があったかもしれない。古代ローマが栄えたのはこの頃からなので、ローマ人は10進法や20進法を原則としつつ、エトルリア人の16進法も併用したのではないか。

俗ラテン語(Wikipedia)

上ページに詳しいが「俗ラテン語はローマ帝国内で話されていた口語ラテン語のことで、ローマ帝国崩壊後、地方ごとに分化し現在のロマンス諸語になった」。

ロマンス諸語(Wikipedia)

話者が現存するロマンス諸語には、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語、ロマンシュ語(スイスの一部地域で話される)などがある。

イタリア語の数体系を振り返ると、11から16までの「1の位+dici」形と、17、18、19の「dici+1の位」形がある。16進法用の独特の数と、20進法用の独特の数のどちらにも見える語構造になっている(なお、12進法は混合していない)。もっとも、英語の場合と比べれば違和感は小さい。他の言語の数体系も見てみよう。

スイス・フランス語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

スペイン語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

ブラジル・ポルトガル語会話集 数字(Wikitravel)

ルーマニア語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

ロマンシュ語会話集 数字(Wikitravel)

若干の差異はあるが、おおむね11から16までは「1の位+10の位」形、17、18、19は「10の位+1の位」形の構造になっている。ルーマニア語はすっきりした20進法だが、これはルーマニア地域を取り囲むように存在するスラヴ語派言語の影響を受けたせいだろう。ルーマニア語の語彙の20%はスラヴ語派言語からの借用だという。スラヴ語派言語の数体系については、前回取り上げている。興味のある方は以下のページをご覧頂きたい。

本節では、ロシア語およびスラヴ語派の数体系について考察したい。

本節では、ロマンス諸語の数体系に、10進法、16進法、20進法が混合しており、12進法が混合していないことを述べた。また、成り立ちを遡ると言語的な先祖のラテン語や、異民族の言語であるエトルリア語に行き着くことが分かった。

ところで、今回挙げた数体系の例では「スイス・フランス語」を取り上げ、「フランス国内のフランス語」は紹介しなかった。「フランス国内のフランス語」の場合、1から20まではイタリア語と同じ特徴だが、21以上に特異な要素があるからだ。

次節では、スコットランド・ゲール語を初めとしたケルト語派について考察したい。「フランス国内のフランス語」の数体系を分析するには、ケルト語派の数体系を先に述べたほうが分かりやすいからだ。

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