不定期記事「探索者」

作成日:2014/09/16
最終更新日: 2016/07/23
作成者:しんどうまさゆき

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本節では、ロシア語およびスラヴ語派の数体系について考察したい。

(注、当ページにはキリル文字やギリシャ文字が表記されています。古いバージョンのブラウザ・OSをご使用の場合、ギリシャ文字のうちアクセント記号や気息記号つきの文字を正確に表示できないことがあります。対処法が以下のサイトに詳しいので、お困りの際はご確認ください)

古典ギリシャ語を表示する(「古典ギリシャ語 ギリシャの箱」中記事)

ギリシャ語が正しく表示できない場合(「独習者のための古典ギリシャ語・聖書ギリシャ語」中記事)

(注、キリル文字やギリシャ文字が全角文字として表示されて、見てくれがあまりよくない場合があります。これはブラウザのフォント設定によって解決する場合があります。気になる方は上ページでご確認ください)

<まえがき−ロシア語についての注>
日本人の大半は、ロシア語を学習したことがないと思われる。以下の話ではロシア語の単語がしばしば出てくるため、ロシア語についての注を少々挙げたい。

まず、ロシア語の表記にはキリル文字を使用する。キリル文字やロシア語の発音については、以下のページで学習できるので、興味のある方は一読するとよい。本節の内容理解には大きく役立ってくれる。

ロシア語講座の部屋 1.アルファベットと記号の種類

ロシア語講座の部屋 2.アルファベットの発音と正書法

ロシア語講座の部屋 3.アルファベットの発音の注意

なお、NHKラジオ「まいにちロシア語」は半年コースのロシア語講座なので、4月号、10月号テキストを勉強しても、キリル文字やロシア語をいくらか読めるようになる。

余談だが、外国語アレルギーの大きな要素の一つは文字アレルギーだ。しかし、これは単なる食わず嫌いである。文字の読み書きを習うだけの浅い学習でも、外国語をものにしたような優越感が得られる。2004年以降、韓国ドラマが日本で流行り、韓国語をものにして、韓国人俳優の追っかけをする日本人がテレビで時々報道される。これは、興味のあることに集中すれば外国語の習得がはかどることの一例だ。

ロシア語に戻ろう。キリル文字はギリシャ文字やグラゴル文字を元にしており、英語等で使うラテン文字とは異なる。キリル文字とその使用圏については以下ページに詳しい。ロシアに接する国とはいえ、言語系統が異なるモンゴル語、カザフ語、キルギス語、タジク語にも使われているのは驚きだ。

キリル文字 1.1 ソビエト連邦とキリル文字(Wikipedia)

次に、ロシア語が必要になる場面を紹介したい。自衛隊では周辺国の諜報に必要なことから、中国語、韓国・朝鮮語、ロシア語が使える人間の採用枠がある。NHK語学講座に中国語、韓国・朝鮮語、ロシア語講座が40年以上前からあるのは(1970年ころかららしい)、政府機関の需要が常に一定数あることも一因と思われる。また、国際宇宙ステーションの船内では英語とロシア語が公用語であり、船長は両方の言語で、会話・文書のどちらとも十分に意思疎通できることが求められる。他にも、ロシア語は国際連合での公用語の1つに認められている。ただし、実際に使われる言語(作業言語)は英語とフランス語だ。

<ロシア語の数体系>
ロシア語の数字(「オンラインロシア語講座 話せるオンライン」中記事)

本題に移ろう。上ページに、ロシア語の1から20までと、30、40、50、・・・90、100、200、300・・・、800、900、1000が載っている。大半の日本人はロシア語を読めないと思われる。しかし少々我慢して、1と11、2と12、3と13、・・・、9と19の2語1組を見比べてほしい。11から19までの数は、1の位+надцать(ナッツァッチ)という構造をしている。3と13なら、три(トゥリー)とтринадцать(トゥリナーッツァッチ)という具合だ。

ここで以前の記事を振り返る。

手指を使った数の数え方と、10進法、12進法、20進法について考察したい。

上記記事から抜粋する。
ヒマラヤの満月と十二進法(NUE 11号-1、追手門学院大学教授 西川善朗)
(指の節を使って、片手で12まで数える図解がある)
「ところで「指の節」型は10進法にも使える。小指から中指までの節9つを片手の親指で指せばよい。」
「突然だが、ここで話題を20進法に移そう。「指の節」型の10進法では、片手で9までを数えた。ここで、10を数えるのに反対の手ではなく、人差し指を折り曲げたらどうか。小指から中指を再度使い、11から19までを数えられないだろうか。「指の節」型は片手での20進法にも使えそうだ。20になったらいよいよ片手に余るので、反対の手の節で20を数える。一方の手で1の位、もう一方の手で20の位を数え、両手を使い切ったとき、最大 20×20=400 までを数えることができる。」
上記の方法に従って、指の節を親指で指しながらロシア語の数詞を1から19まで読み上げていただきたい。単語の作り方に、日本語とは発想が異なるものの、それなりの合理性があることが実感できるだろう。

英語やゲルマン語派では、11から19までの数詞で、10進法、12進法、20進法の3方式が混合していたのに対して、ロシア語の1から20まではすっきりした20進法になっている。1と11が、один(アジン)とодиннадцать(アジンナッツァッチ)、2と12が、два(ドゥヴァ)とдвенадцать(ドゥヴェナーッツァッチ)になっているので、実に落ち着いた雰囲気がする。なお、21から99までは10進法になっている。数詞の構造は、21なら20+1、22なら20+2、23なら20+3、・・・31なら30+1、32なら30+2、33なら30+3、・・・となっており、日本語、英語、ロシア語の3者で共通している。ロシア語では以下のようになる。двадцать один(21), двадцать два(22), двадцать три(23)... , тридцать один(31), тридцать два(32), тридцать три(33) ... (ドゥヴァッツァッチ アジン、ドゥヴァッツァッチ ドゥヴァ、ドゥヴァッツァッチ トゥリー、・・・、トゥリツァッチ アジン、トゥリツァッチ ドゥヴァ、トゥリツァッチ トゥリー、・・・)

もっとも、20、30、40、・・・、90のそれぞれは不規則だ。2×10、3×10、・・・、9×10の構造をしているのだろうが、「×10」の部分が不統一だ。40はсорок(ソーラク)で、なぜか独特の単語を使っている。

<スラヴ語派の数体系>
スラヴ語派(Wikipedia)

さて、ロシア語はスラヴ語派のグループに属する言語である。スラヴ語派の言語では、1から19までの数詞が整然とした20進法である特徴がある(なお、12進法は混合していない)。以下に例を列挙しよう。

Ukrainian grammar 2.1.5 Numbers(Wikipedia:en)(ウクライナ語の数体系)

Slovak language 4.3 Numerals(Wikipedia:en)(スロバキア語の数体系)

クロアチア語の数体系(「思索の遊び場」中記事)

Slovene numerals(Wikipedia:en)(スロベニア語の数体系)
(1.1 Units に1から10まで、1.2 Decades に11から99までの数え方が解説されている)

Polish grammar 5 Numbers and quantifiers(Wikipedia:en)(ポーランド語の数体系)
(The basic numerals are 1 jeden, 2 dwa, 3 trzy, 4 cztery, ... 11 jedenaście, 12 dwanaście, 13 trzynaście, 14 czternaście, という一節がある)

Macedonian numerals(Wikipedia:en)(マケドニア語の数体系)

整然さで特に感心するのはクロアチア語で、20、30、40、・・・90も「×10」の部分が統一されており、見事だ。日本人のような10進法のみの民族にとっては、英語よりも使いやすいように見える。しかし、スラヴ語派の言語の数詞には、学習者に悩ましい難解な側面がある。

(余談だが、スラヴ語派の言語の全てがキリル文字を使うわけではなく、ラテン文字を使う言語もある。前掲の Wikipedia記事「キリル文字」に詳しい。「スラヴ語派と正教会の重なる範囲」かどうかが、キリル文字とラテン文字の分かれ目になっているので、文化背景の境界線が文字でも律儀に区分けされていることになる)

рубль, рубля, рублей(ルーブリ、ルブリヤー、ルブリエーイ)>
スラヴ語派の数詞の難解さについて、一例を挙げよう。ロシア通貨のロシア・ルーブルは、数詞に合わせて語尾が変化する。рубль, рубля, рублей(ルーブリ、ルブリヤー、ルブリエーイ)の3種類を使い分けるのだが、その規則は以下に詳しい。

ロシア・ルーブル 3 ルーブルの語尾変化(Wikipedia)

だいたいは上ページの解説のとおりだが、「5ルーブル以上ならрублей(ルブリエーイ)」は厳密には正しくない。1から99までは、以下のように語尾変化する。


21 рубль, 22 рубля, 11 рублей などをgoogleで検索すると、ロシア語のページが出てきて使用例を確認できる。複雑極まるのだが、律儀に語尾変化させている。

なお、上のルーブルの例に限らず、一般にロシア語では、数詞の後に続く名詞が同様の語尾変化をする。以下ページに詳しい。

数詞の後の名詞変化 【ロシア語会話講座】

ロシア語講座の部屋 2.9. 数詞について
(ページ中の 1.2. 用法に載っている)

(主題からそれる補足: 数詞の後に続く名詞が、数詞に合わせて3種類に語尾変化する(名詞の語尾変化を格変化と言う)と上で述べたが、これは名詞が文中で主格か対格を要求される場合である。これ以外の場合、つまり生格、与格、造格、前置格のいずれかを要求される場合は、数詞の影響は受けない。そのまま生格、与格、造格、前置格の語形を取る。(参考文献、まいにちロシア語 2013/06号 pp.94-97))

(主題からそれる補足: ロシア語では、名詞の格が6種類ある。主格、生格、与格、対格、造格、前置格である。「名詞の格」とは日本語の「てにをは」にあたるもので、ロシア語では名詞を語尾変化(格変化)させて文を作る。詳しくは以下を参照。

ロシア語 6.1 名詞(Wikipedia)

人名・地名すら格変化するので、実用会話に限っても単語を覚えるのが一筋縄ではいかない。単語を覚える難しさが相当に高いので、大学の第二外国語科目でロシア語はしばしば敬遠される)

рубль, рубля, рублей(ルーブリ、ルブリヤー、ルブリエーイ)の使い分けの成り立ち>
前述の、рубль, рубля, рублей(ルーブリ、ルブリヤー、ルブリエーイ)を使い分ける理由に踏み込んでみよう。

ロシア語講座の部屋 7. ロシア語の格変化の意味・用法

上ページの「2. 生格(せいかく)(4)数字と結びつく生格」から引用する。

「ロシア語ではこのように、単語の直前の数が1の場合は主格、2〜4のときは単数生格、5以上の場合は複数生格を使います。

要は古典ギリシャ語にもある、部分属格というやつです。5冊の本、という表現は、本というものの中のうちの5冊、とも言えますが、「本というものの中のうちの」というニュアンスを表現するために、属格を使用するのです。

2〜4の時だけ何で単数生格なんじゃい、ということですが、一般的には古代教会スラブ語の両数(双数)が生き残ったものだと説明されております」

(注、単数生格形について・・・更に詳しく言うと、古代教会スラヴ語では、双数主格形と単数生格形がたまたま同じ語形をしていたため、単数生格形が双数主格形を代替するようになった。ロシア語の場合、組数主格形と言ったほうがいいかもしれない)

また、上ページの「2. 生格(せいかく)(6)部分生格」から引用する。

Я пью чай. 私はお茶を(習慣として)飲みます。
Я выпил чаю. 私はお茶を(一杯)飲みました。

飲食・貸し借り・売り買いの動詞で、目的語(大抵は物質名詞)の部分が突如生格になっていることがあります。

この場合の生格を「部分生格」と呼び、部分生格はある部分のうちの「一杯」「一切れ」「適切な量」などのニュアンスを含みます。

ちなみに、この部分生格が使用される際、動詞は必ず完了体です。

先ほども述べましたが、古典ギリシャ語、ラテン語などにもある部分属格の用法ですね。」

(注、部分生格や部分属格について・・・親集団に属する子集団を意識するとき、子集団となるもの(物質名詞)を生格形にするようだ。「お茶を一杯」とあるが、注目すべきはカップではなく、カップなしでは形が定まらない茶である。数杯分になるだろう「相当量の茶」から一杯分になる「適切な量の茶」を飲んだ、という意識が働いて、対格形のчай(チャーイ、お茶を)になるべき箇所で生格形のчаю(チャーユ、本来は「お茶の」だがここでは「お茶を」の意)に変化している。数えられるものについても、親集団に属する子集団という意識を当てはめるのだろう)

<2、3、4と双数形>
まず、名詞の双数形について解説する。

双数形(Wikipedia)

英語などのゲルマン語派や、ロシア語などのスラヴ語派は、さらに大きなグループである「インド・ヨーロッパ語族」に属する。インド・ヨーロッパ語族の言語では、2つで1組を成すものに対して、名詞に独特の語尾変化をさせていた時期があり、これを双数形と言った(現代でも双数形が生きている言語が若干ある)。英語にも双数形の名残がある。

英語で悩むあなたのために 102.---3、複数形についてのその他

上ページの「6、複数形しかない名詞」に詳しい。例を以下に引用する。

gloves(単数形gloveなら片方の手袋), compasses(コンパス), shoes(単数形shoeなら片方の靴), glasses(眼鏡), socks(靴下), scissors(ハサミ), trousers(ズボン), pants(ズボンやショートパンツなどの総称), panties(パンティ)

pants や panties は厄介だ。ズボン1着は a pair of pants, パンティー1枚は a pair of panties と言う必要がある。日本語の感覚とはやや異なる。

英語の場合、2個1組のものについては、双数形が存在しない代わりに「a pair of + 名詞の複数形」を使う。2個1組でないものについては「1+名詞の単数形」、「2以上+名詞の複数形」だ。個々の単語の煩雑な問題はともかく、遠い親戚のロシア語と比べて、非常に簡略化されている。

しかし、ロシア語では2個1組、3個1組、4個1組を双数形に含めている。2個1組はまだ分かるが、3個1組、4個1組のものなど、そうそう見つからないではないか? ここで私の仮説を述べる。

再び「指の節」を使って20まで数える操作を思い出してほしい。この際、数える道具である手指に改めて注目しよう。


以上で、2個1組、3個1組、4個1組が正に手元に出現する。ロシア語で2、3、4個のものを双数形(組数形と言いたくなるが)の対象に含めるのは、2、3、4が手指という「数を数える道具の特徴」を表すからではないか。

<5-20+部分生格(名詞の複数生格形)>
次に、部分生格について解説する。部分生格の解説を再掲しよう。
Я пью чай. 私はお茶を(習慣として)飲みます。
Я выпил чаю. 私はお茶を(一杯)飲みました。

飲食・貸し借り・売り買いの動詞で、目的語(大抵は物質名詞)の部分が突如生格になっていることがあります。

この場合の生格を「部分生格」と呼び、部分生格はある部分のうちの「一杯」「一切れ」「適切な量」などのニュアンスを含みます。」
ロシア語では「5-20(及び25-30、35-40、45-50、55-60、〜)→名詞の複数生格形」だが、特に5-20にも名詞の複数生格形を続ける点が歪で奇妙だ。「手持ちのルーブルのうちの」というニュアンスが、なぜ5-20という中途半端な範囲の数にしか使われないのか?

またまた「指の節」を使って20まで数える操作を思い出してほしい。この際、1から20までを数え、21、22、23、・・・となったら反対側の手も使い、20の位と1の位を数えよう。

「21以降は両手が必要だが、1から20までは片手で数えきれる数のグループになる。1は単数であり、集団とは言えない。2、3、4は双数(組数)と言いたい規模で、集団と呼ぶには大げさだ。5-20は複数と言いたい規模で、たいていの人やものに当てはめても、大きすぎず少なすぎない小集団と言えるだろう。21以上は中集団、大集団と呼ぶべきではないか? ・・・」スラヴ語派の人々の語感を代弁すると、こういったふうになるだろうか。5-20の範囲の数は「親集団の中の子集団」を連想させるため、後の名詞を複数生格形に変化させよう・・・という発想になるのではないか(数詞と結びつく生格は、部分生格から派生したと思われる。なお、単数生格形は双数主格形として使用済みなので、複数生格形しか使えない)。

<21以上は1の位にのみ注目>
最後に21以上について考察する。
21以上は片手で数えきれないグループであり、人やものに当てはめても、もはや小集団とは言えない(中集団か大集団だ)。そのため、複数生格の使用を中止する。片手に収まらない数は大きい数であり、20進法を使って名付けると不便だ。実用上、21以上は10進法で細かく区切って名づけたほうが簡単だろう。そこで、「21以上の数(両手が必要な数)」という別グループや語尾変化は作らず、1の位にのみ注目した単数主格、単数生格、複数生格を繰り返す方式にする。

本節では、スラヴ語派の数体系に、10進法と20進法が混合しており、12進法が混合していないこと、さらに「1」と「2、3、4」と「5〜20」と「21以上」を区別したがる特徴があることを述べた。次節ではイタリア語を初めとしたロマンス諸語について考察したい。

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<補足、40がсорок(ソーラク)になる理由>
ロシア語の数詞を再び見ていこう。

ロシア語講座の部屋 2.9. 数詞について

20、30、40、・・・90をそれぞれ見ると、「×10」に当たる部分がやや不規則だ。そして、40がсорок(ソーラク)という特別な単語になっている。素人目にはчетыредцать(チトゥリッツァッチ)になりそうだが、唐突にсорокが現れる。

сорок(Wiktionary 英語版)

上ページによると、сорокの語源はいくつか説がある。

1、ギリシャ語のτεσσαράκοντα(テッサラコンタ、意味は40)。ただし、発音や意味を検討すると疑わしい。

2、古いロシア語のсорокъ(発音はおそらくソーラク、意味は40枚1束のクロテンの毛皮)で、古くからあったчетыре десять(40。четыреは4、десятьは10を意味する。4×10の構造をしている)を置き換えた。

3、最も確からしい説。テュルク語族の単語кърк(発音はおそらくクルク、意味は40)。ロシア語では k-s への音変化が起こり、сорокになった。

<オスマントルコの通貨、クルシュ>
トルコ語の数体系(「世界の言語の数体系」中記事)

上ページで確認できるが、現代トルコ語でも40は kirk(クルク)と言う。しかし、なぜ40にだけトルコ語を借用したのだろう。クルクについて調べると、以下ページが見つかった。

貨幣(通貨)の単位(「コインの散歩道」中記事)

上ページは世界の通貨の歴史をまとめたサイトだ。「目次 2 イスラム世界」のリンクをたどると、「オスマントルコ帝国(1300〜1921)」の行に以下の通貨単位が見つかる。

【Pound/Lira】─100─【Kurushu/Qirsh/Piastre】─40─【Para】─3─【Akce】

かつて栄えたオスマントルコ帝国には独自の通貨があり、通貨単位には、リラ、クルシュ、パラ、アッケがあった。注目したいのは「1クルシュ=40パラ」だ。この通貨単位の換算に従えば、クルシュは40を連想させる。

Kuruş(Wikipedia:en)

Para (currency)(Wikipedia:en)

Ottoman lira(Wikipedia:en)

オスマントルコの通貨単位について、上ページでさらに調べることができる。それによると、クルシュの登場は1688年だという。

貨幣(通貨)の単位(「コインの散歩道」中記事)

上ページから「目次 1.3(d)ポーランド、ロシア」のリンクをたどると、同時期のロシアとポーランドではルーブルが流通していた。ロシアと東ヨーロッパ諸国は同系統のスラブ語派が多いので(全ての国ではない)、交易を行いやすい。更に、東ヨーロッパ諸国はオスマントルコ帝国と接していたため、貿易が行われていただろう。結果、ロシアでもトルコリラ、クルシュ、パラが外貨として広まり、クルシュが40の俗語として広まる。やがて、クルシュはソーラクと訛ってロシア語と化していく。

<聖書でも40は特別>
オスマントルコの通貨が流通していたから、40がトルコ語の単語で置き換えられた、というのはきっかけの1つではあろうが、まだ根拠が弱い。しかし、以下ページの情報ならどうか。

聖書の40日の意味(「ノリブロ」2013/09/30 00:40)

聖書には40の数字が頻出するという。更に、40は逆境や困難と関連付けられるそうだ。ロシア語が40にトルコ語を採用したのは、ロシア・ルーブルにとって外貨は脅威だと印象づけるための、政治的意図かもしれない。

<50、60、70、80、90の不規則性は分からない>
40については辻褄の合う説明をすることができたが、50、60、70、80、90についてはまだ分からない。特に90が謎だ。9と100が合わさったような語形をしているが、うまく説明できる論理を作れなかった。今回の考察では、この問題は未解決とする。

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