不定期記事「探索者」
作成日:2014/09/13
最終更新日:
2016/07/23
作成者:しんどうまさゆき
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本節では、英語およびゲルマン語派の数体系について考察したい。
上ページに、英語での1から100までの言い方が載っている。中学で英語を習うと、数の呼び方(数詞)を覚える。1から10まではまずまずよい。しかし、11から19までが歪だ。20以降は1から10までと同じで単純になるのだが、なぜか11から19までが特殊だ。覚えにくくて困った人は少なくないだろう。私も違和感を覚えた学習者の一人だ。
10進法で統一するならば、以下のように言いたくなる。
ten one, ten two, ten three, ..., ten eight, ten nine
1から20までに限って20進法の混在を認めるならば、以下のように言いたくなる。
oneteen, twoteen, thirteen, fourteen, ..., nineteen
しかし、英語は以下の方式を選択した。
eleven, twelve, thirteen, fourteen, ..., nineteen
ここで前回記事を思い出そう。
前回記事から抜粋する。
「「指の節」型の数え方は手指の操作方法に共通点があるため、10進法、12進法、20進法の3方式をまるで同一の方法であるかのように使える(3つを使い分けている感覚、あるいは「境目感」がぼやけている)。10進法、12進法、20進法の3方式は大きな1グループに属しており、渾然一体だとも言える」
「以上までの節で「指の節」型の数え上げが、10進法、12進法、20進法を渾然一体に扱えることを述べた。実はこの「渾然一体」が、ヨーロッパの言語の数詞(インド・ヨーロッパ語族諸語の数体系)に大きく影響を与えたのではないかと筆者は考えている」
英語の11から19までは、「指の節」型の数え上げによって10進法、12進法、20進法が渾然一体に感じられるため、あるいは10進法、12進法、20進法を使い分ける必要があり、帳尻を合わせるために、歪な数体系をあえて採用したのではないかと私は考える。
上ページから引用する。「(英語をはじめ、ゲルマン語派の)11, 12 の数詞の語源はそれぞれ 1 余り、2 余りを意味する *ainlif, *twalif であり、十二進法ではなく十進法に基づく数詞だが、13 以上と構成が異なるのを十二進法の影響とする説がある」。
「11から19までの数について、12進法を取り入れたい、しかし10進法を無視するのもよくない、さらには20進法にもなんとかつながるようにしたい」・・・昔のゲルマン語派の人々を代弁すると、こんなふうになるだろうか。そして、10進法、12進法、20進法の帳尻を合わせる数詞(命数法)を発明した。
eleven は元々 *ainlif であり、10進法の数にも見えるが12進法用の独特の数にも見える。twelve は元々 *twalif であり、これまた10進法の数にも見えるが12進法用の独特の数にも見える。thirteen, fourteen, fifteen, ..., nineteen は10進法の数にも見えるが20進法用の独特の数にも見える。11から19までの数では複数の数体系が混合しており、渾然一体感がある。
冷蔵庫に食材を収めるとき、量が多いと中が混沌としてしまい、後で取り出すのに苦労するが、数体系にもそれと似た事情があったのだろう。日本人は「指の数」型の10進法だけを使うため、このあたりの苦労が分からないことになる。ただし、現代の英米人は「指の数」型の10進法を使うようだから、数を覚えるのに違和感があるかもしれない。「指の節」型の10進法、12進法、20進法を覚えれば、整然としていて、かつ複雑な数体系の理論が頭の中に構築されるだろう。
言語には先祖・子孫・親戚のような縁戚関係がある。英語はゲルマン語派というグループに属する言語である。ゲルマン語派の言語では、11から19までの数詞に10進法、12進法、20進法が混合している特徴がある。以下に例を列挙しよう。
地理的に近い他の語派、例えばフランス語、ロシア語、フィンランド語には上のような特徴はない。ゲルマン語派に限って、11から19までの数に複数の数体系が混合しているのはなぜか。3方式の混合を選択した理由や歴史資料は私には見つけられていない。10進法のみの言語(日本語、中国語、アラビア語など)でも暦を作ることはできたし、季節を把握しての漁労も農耕も行っている。10進法、12進法、20進法の3つを併用せずとも文明は成り立ちうるのであり、複雑な方式を使うことに必然性はない。ゲルマン語派はたまたま思いついた3方式の併用を選んだだけなのかもしれない。しかし「指の節」型の数え上げには、3方式を統一的に扱えることへのお得感や美意識が生まれるので、これを理由に選んだ可能性がある。
「語感」を辞書で引くと「言葉のもつ微妙な感じ。言葉から受ける主観的な印象」とある。母国語に対して抱く美意識も、語感と言ってよいだろう。英語の語感は日本語の語感とは相容れなかったり、まったく見当が違っているところもあるが、理屈をよく考えて尊重したほうが外国語学習には有用だ。
本節では、ゲルマン語派の数体系に、10進法、12進法、20進法が混合している特徴があることを述べた。他の語派には違った特徴がある。次節ではロシア語を初めとしたスラヴ語派について考察したい。
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<補足、英語の分数表現>
本節では整数の1から20までについて考察したが、関連する事柄として、英語の分数の語感についても考察してみる。まず分数の例を挙げよう。
(分数を表す英語の例)
a (one) half, a (one) third, a (one) quarter, a (one) fifth, a (one) sixth, a (one) seventh, an (one) eighth, a (one) ninth, a (one) tenth, ...
(英語の意味)
1/2, 1/3, 1/4, 1/5, 1/6, 1/7, 1/8, 1/9, 1/10, ...
英語では、序数詞に分数の意味もある。古典ギリシャ語でも同様なので、インド・ヨーロッパ語族に古くからある語感らしい。third, fifth, sixth, 等を辞書で調べると、序数詞(3番目の、5番目の、6番目の・・・)の意味の他、分数(〜分の1)の意味もあることが確認できる。以下のオンライン辞書にも掲載されている。
日本語では序数詞が「5つ目」、分数が「5分の1」で、語彙に英語ほどの同一性がない。英語ではなぜ同じ単語を用いるのか。これは、以下の連想・類推が働いたからだと私は考える。
第5の→5番めの→5回目の→1の中に5度現れる→5分の1
英語の序数詞には「〜回目」の意味もある。同じくオンライン辞書で用例を見てみよう。
序数詞の訳語に「〜回目の」「〜度目の」を「〜番目の」とは別項目として扱った上で、連想による意味の広がりを図解するのが序数詞の語感の理解(本質的な理解、あるいは統一的かつ応用が効く理解)によい。先に挙げた3種のオンライン辞書はいわゆる「大手」のもので、翻訳家も重用している。ただし、日本人学習者向けの工夫がほしいと感じる。
上サイトのページも参照してみたが、分数の表現については運悪く記載がなかった。なお、誤解のないように言うが「英語で悩むあなたのために」は日本人学習者に非常に有益な英語学習サイトだ。一例を紹介したい。
上ページでは、日本語と英語の時制の概念について丁寧な比較分析が行われている。そして当項目を元に、以下の解説がされている。
これこそが英語の語感を解明した英文法解説だ。英語ができる人間(外国語としての英語運用の上級者)の感覚とはこういうもので、英語が苦手な人には、このような「畳の上の水練」的な勉強でかえって能力が目覚める場合もある。例えば、「ビジュアル英文解釈」(伊藤和夫著)、「英語リーディング入門」(薬袋善郎著)といった、予備校講師による大学入試向けの英文解釈演習書は、社会人の読者による Amazonレビューがしばしば見つかる。「英語で悩むあなたのために」サイト作者も英語の感覚が身につくような解説を基本方針としており、英語教師にも学ぶべき点が山盛りだ。数多ある英文法の解説書は、このサイトによって淘汰されてしまう可能性がある。
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