不定期記事「探索者」

上ページに詳しいのだが、私なりに要約してみる。ヨーロッパではフランス、ベルギー、スイスなど。アフリカでは帝国主義の時代（19世紀半ば－20世紀半ば）に旧フランス植民地だった地域。アメリカではハイチ、カナダのケベック州（州の唯一の公用語）、アメリカ合衆国のルイジアナ州（話者の割合は5%に満たない。ただし州法では特定状況で英語とフランス語を使うことを認めている）。北米大陸にフランス語圏があるのは、17世紀から18世紀にかけて、北米大陸の中部がフランス植民地（フランス領ルイジアナ）だった名残だ。なお、同時期の北米大陸の東海岸はイギリスの13植民地であり、後の独立十三州だ（初期のアメリカ合衆国）。

フランス領ルイジアナ（Wikipedia）

13植民地（Wikipedia）

興味のある方は、上ページで調べるとよいだろう。

「フランス語圏」のWikipedia記事によると「フランス語は、かつてヨーロッパにおける外交語として広く流通していた実績もある。英語に次ぐ第二外国語として欧米を中心に広く学ばれており、国際連合や国際オリンピック委員会の公用語にも採用されている。世界約50カ国以上で話されている」。国際連合の公用語は6つあるが（英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語）、作業言語（国際連合の文書で使われる言語）になっているのは英語とフランス語の2つだ。オリンピックでも、場内アナウンスが英語とフランス語でされるのをしばしば耳にするだろう。

＜フランス語の数体系－スイスとフランス＞

スイス・フランス語の数体系（「思索の遊び場」中記事）

（フランス国内の）フランス語の数体系（「思索の遊び場」中記事）

本題に戻ろう。スイス・フランス語は整然とした10進法になっている。ところが、フランス国内のフランス語は奇妙なほどに複雑だ。

表1・フランス国内のフランス語の数体系

1－20	21－60	61－79	80－99	100－120
20進法（0 + A 形）	10進法	20進法（60 + A 形）	20進法（4 x 20 + A 形）	20進法（100 + A 形）

数体系の法則性を表1にまとめた。まずは20進法、次に10進法、再び20進法、更に「4 x 20 + A 形」の20進法、その後は「100 + A 形」の20進法に変わる。日本人から見れば支離滅裂としか映らないだろう。この数体系を考察するために、以前の記事二つを振り返りたい。

＜復習1－イタリア語およびロマンス諸語の数体系＞

イタリア語およびロマンス諸語の数体系について考察したい。

上ページのまとめを再度記す。ロマンス諸語の数体系には10進法、16進法、20進法が混合しており、ゲルマン語派のように12進法が混合してはいない。また、成り立ちを遡ると言語的な先祖のラテン語や、異民族の言語であるエトルリア語に行き着く。

ロマンス諸語の数体系には、11から16までが「1の位＋10の位」形、17、18、19が「10の位＋1の位」形になる特徴がある。これは10進法、16進法、20進法を使い分けた文化の名残ではないか、というのが私の考察だ。

フランス語も俗ラテン語を元に変化を重ねたロマンス諸語の一つなので、11から16までが「1の位＋10の位」形、17、18、19が「10の位＋1の位」形になる。11から19までの不規則性の由来は、これで分かっていただけるだろう。詳しい解説は上ページの拙稿をご覧頂きたい。

＜復習2－スコットランド・ゲール語およびケルト語派の数体系＞

スコットランド・ゲール語およびケルト語派の数体系について考察したい。

上ページのまとめを再度記す。ケルト語派の数体系には「A x 20 + B 形」の20進法がしばしば見つかる。この形態での数え方を「純粋な20進法」と仮に呼ぶ。「純粋な20進法」は世界各地で独立に考案されている。その極みはマヤ文明とその子孫が用いる言語で、300万を超えてもなお「A x 20のn乗 + B 形」で数える。

また、ケルト人はかつてヨーロッパに広く分布していた民族で、現代のフランスにも一時居住していた。古代ローマ人は現代のフランスに相当する地域をガリアと呼び、ガリアに住んだケルト人をガリア人と呼んだ。ヨーロッパ大陸のケルト人はローマ人やゲルマン人の移住によって民族的に同化し、大陸のケルト系言語は死語になった。しかし、フランスには現代もなお、「自分の民族的ルーツはガリア人だ」と主張する人がいる。フランス語では「自分はゴルワだ」と言うようだ（ゴルワとはガリアがフランス語風になまった語）。タバコのブランドの「ゴロワーズ」はゴルワ、つまりガリアにつながる単語だ。

フランス語の数体系にはケルト語派の「A x 20 + B 形」が残っていることになる。80から99までがこれに相当する。スコットランド・ゲール語のように「A x 20 + B 形」で完全に統一されてはおらず、10進法、「60 ＋ A 形」の20進法、「100 ＋ A 形」の20進法と併用している。「A x 20 + B 形」は突然現れる奇妙な方式だが、フランスの民族の成り立ちからすれば後世に続いても当然であって、全くおかしいということはない。数体系がつぎはぎ状になっているのも、フランス国内の民族が様々で、複数の数体系の混在が影響したと考えられる。要約すれば以上になるが、詳しい解説は上ページの拙稿をご覧頂きたい。

＜17世紀に決められた数体系＞

現代のフランス語の数体系は17世紀に決められたという。

ルッソン 1 : ６０＋１０、４×２０の由来――英語にもあった20進法
（「石原都知事のフランス語発言に抗議する会」中記事）

上ページに、フランス語の数体系の歴史的経緯が紹介されている。以下に一部を引用する。

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さて、話を戻してフランスの17世紀、ヴォージュラ、メナージュなど、アカデミー・フランセーズの面々が中心となって、フランス語の統一、規格化作業に着手した際、60までは10進法、70から99までは20進法という現在の体系が正規の語用として採用されました。厳密にいうと、「６９」までは20進法が駆逐された、ということですね。なぜ、そのような中途半端なことを？という問いに対しては、はっきりした答えは見出せません。とにかく、そう決めた人々にとって、７０以上については「セッタント」よりも「ソワサント＝ディス」、「オクタント」「ユイッタント」よりも「カトル＝ヴァン」方が「一般的である」と思われたにちがいありません。ひとつの言語を深く研究したことなどない人でも、言葉におけるイレギュラー性が、人の好み、その場の多数決、「一般的」なるもののとらえ方、言い易さ、他の単語との関係など、恣意、偶然としか言いようのないものに左右されるものであるという点は、そう無理もなく理解できるのではないでしょうか（たとえば、nonanteという言葉は、どうしても「修道院の尼さん」nonnainという戯語を連想させてしまいます）。

ちなみに、その後、歴代アカデミー・フランセーズ編纂のすべての辞書に、septante, octante, nonante という、ラテン語から導き出された10進法にもとづく数詞もきちんと登録されている、ということもつけ加えておきましょう。

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実は、中世からずっと、17世紀、アカデミー・フランセーズによるフランス語の規格化を経たあともなお、18世紀、あるいは19世紀の初頭まで、フランスのフランス語でも、septante, huitante, nonante という数詞は用いられておりました。

（用例）
ドリアント――計算はぴったりですわ。全部で５千６０リーヴル。
ジュルダン氏――それから、千８百３２リーヴルは、あなたの羽根細工師に。
ドリアント――そのとおり。
ジュルダン氏――２千７百８０（quatre vingts）リーヴルは、あなたの仕立屋に。
ドリアント――たしかに。
ジュルダン氏――４千３百７９（septante neuf）リーヴル、１２ソル、８ドゥニエは、あなたの御用商人に。
（モリエール『町人貴族』（1670年）第三幕第４場）

（用例）
そこでエゼキエルは、３９０日（trois cent nonante jours）間、左腹を下に、４０日間、右腹を下にして寝た後･･････。
（ヴォルテール『ボーリングブルック卿の重要なる検証』（1766年））

しかし、それと平行してケルト起源といわれている20進法も頻繁に用いられておりました。

（用例）
２４０＝１２×２０ XII vins（12世紀、ジョワンヴィル）
２８０＝１４×２０ XIIII XX（同）
２７２＝１３×２０＋１２ treize vingt et douze（12世紀、ル・ルー・ド・ランシー３００＝１５×２０ quinze-vingts（1254年、聖ルイ王が「十字軍からの帰還負傷兵三〇〇人のため」として設立した「カンズ・ヴァン病院」）
１２０＝６×２０ six-vingts（1668年、ジャン・ラシーヌ『訴訟狂』第一幕第７場）
７０＝３×２０＋１０ trois-vingt-dix（1692年、ル・ミュスの教区古文書）
３９＝２０＋１９　vingt-dix-neuf（1813年、サン＝ジャン・ド・ブーニェの戸籍謄本

簡単に言えば、その起源以来、フランス語は10進法と20進法を併用していたわけですな。

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歴史的には、ラテン語（ロマンス諸語）の10進法形と、ケルト語派の「A x 20 + B 形」の20進法との二本立てであり、数体系の統一後も、非公式には二本立ての状態が長く続いた。

＜数体系を決めた17世紀のアカデミー・フランセーズ＞

アカデミー・フランセーズ（Wikipedia）

上ページによると、アカデミー・フランセーズは「ルイ13世治下の1635年2月10日、正式に設立された」。「当初の役割はフランス語を規則的で誰にでも理解可能な言語に純化し、統一すること」だったという。この国立学術団体が、現代まで続くフランス語の数体系を定義した。

ある言語の数体系は、学校教育を受ける前におおよそ覚えてしまうものだ。フランスの民衆は慣習となった二本立ての数体系をまず覚えるので、国立学術団体が数体系を突然統一しても、民間がこれに追随するには相当な年月を要するだろう。そこで建前としては、二本立てをつぎはぎ状にした「使いにくい統一版」を公式とする。しかし、公式版は使いにくいため、今までどおり二本立てを使ったほうが便利だ、という本音の立場を立ててやり、非公式には黙認する。公式の数体系は、初期には政府文書でしか使われなかったのではないか。200年、300年と時間をかけて徐々に変革する展望だったのかもしれない。

二本立ての数体系のいずれかを突然廃止すると、多民族社会によって生まれた古典的知識から、現代人の文明が切り離されてしまう。「フランス語を規則的で誰にでも理解可能な言語に純化し、統一する」とはいっても、言葉の由来が分からなくなる改変は、長期的に見て理解不能な改変になってしまう。母国語話者への分かりやすさと、外国人への分かりやすさは矛盾してしまうものだ。

余談だが、日本語は新仮名遣いの採用によって、言葉の由来が分かりにくい言語になった。作家・丸谷才一の著書「日本語のために」「桜もさよならも日本語」（新潮文庫）にこの辺りの評論が詳しい。歴史的仮名遣いには江戸・鎌倉・平安などの古典とつながる歴史的価値があるため、復活させるのがふさわしい、という旨を丸谷は主張しており、自身の小説・エッセイの大半は歴史的仮名遣いで書かれている。「桜もさよならも日本語」巻末の「附録1 歴史的仮名遣ひの手引き」（pp.250－257）、「附録2 和語と字音語の見分け方」（pp.258－261）、「わたしの表記法について」（p.262）には、歴史的仮名遣いの特徴が網羅されており、丸谷の著書本文を見本として、古文の入門的学習が行える。丸谷のエッセイは博覧強記ながらも軽妙で、執筆当時の昭和中期の風俗や古典文学の話題が多いのだが意外と読みやすい。

＜数体系の分析－「つぎはぎ」ではなく連続的変化＞

本題に戻ろう。先の表1から、フランス国内のフランス語の数体系がつぎはぎだらけだ、と一度は述べた。しかし、今までに述べた歴史的事情を知った後に改めて数体系を分析したい。

表2・つぎはぎな数体系の分析（フランス国内のフランス語）

1－19	20－29	30－39	40－49	50－59	60－79	80－99	100－119	120－129	130－139	140－149	150－159	160－179	180－199	200－219	220－229	230－239	240－249	250－259	260－279	280－299	300－319	320－329	330－339	340－349	350－359	・・・
20進法（0 + A 形）	10進法	10進法	10進法	10進法	20進法（60 + A 形）	20進法（4 x 20 + A 形）	20進法（100 + A 形）	10進法	10進法	10進法	10進法	20進法（100 + 60 + A 形）	20進法（100 + 4 x 20 + A 形）	20進法（200 + A 形）	10進法	10進法	10進法	10進法	20進法（200 + 60 + A 形）	20進法（200 + 4 x 20 + A 形）	20進法（300 + A 形）	10進法	10進法	10進法	10進法	・・・

表2は、1から359までの数体系の法則性を、私なりに区切ってまとめたものだ。300から400までの範囲で数を眺めていくと、非常に規則的な感じがしないだろうか。私の場合、歌でも歌っているような気になる。「導入部－中間部1－前サビ1（導入部の変形）－サビ1－後サビ1（導入部の変形）－中間部2－前サビ2－サビ2－後サビ2－中間部3－前サビ3－サビ3－後サビ3－・・・」といった歌詞構成の歌に近いと思える（「汽笛一声新橋を　はや我汽車は離れたり・・・」で始まる鉄道唱歌は374番まである）。今度は逆に、歌詞構成を数体系に当てはめて解説しよう。

【導入部】1－19は20進法とする。1－19は20進法の数に不可欠で、繰り返し用いる要素だからだ。数体系の中で20進法が必要だと予告しておく。

【中間部1】20－29、30－39、40－49、50－59は10進法とする。20進法から10進法に突然切り替わるので唐突さがある。しかし、20進法は1－19までなのに対して、10進法は20－39と40－59で、長さが2倍なので、次第に唐突さは弱められる。

【前サビ（導入部の変形）】60－79は20進法とする。60 + 1－19 の構成にする。最初に60を10進法で呼び、その後に20進法の1－19を続ける。10進法と20進法が混ざっており、10進法から20進法へと連続的に切り替わる仕掛けになっている。10進法から20進法へ変わる唐突さを弱めている。

【サビ】80－99は20進法とする。4×20 + 1－19 の構成にする。直前の60－79で、連続的に20進法に切り替わったので、純粋な20進法の構成にする。4×20に唐突さが感じられるが、直前で10進法から20進法へと連続的に切り替わることで、一種の予告がされたことと、80－99を唱える中で 4×20 が繰り返し現れることから、唐突さは弱められる。

【後サビ（導入部の変形）】100－119は20進法とする。100 + 1－19の構成にする。直前の4×20に続く5×20ではなく、10進法が意識される100を唱え、その後に20進法の1－19を続ける。10進法と20進法が混ざっており、10進法で100と繰り返し呼ぶことから、20進法と10進法のどちらを使っているのか、判然としなくなる。結果、20進法から10進法へと連続的に切り替わる仕掛けになっている。20進法から10進法へ変わる唐突さを弱めている。

【中間部2】120－129、130－139、140－149、150－159は10進法とする。10進法に変わったことに唐突さが感じられるが、直前の100－119で、連続的に10進法に切り替わったことと、120－129を唱える中でも10進法で100と繰り返し呼ぶことから、唐突さは弱められる。

実に微妙で繊細な、感覚重視、音楽的な形式重視の発想だと私は思う。統一版は二本立ての数体系の「つぎはぎ」ではなく、連続的な変化だ。これこそがフランス語の数体系の正体なのではないか。

＜ルイ14世が発明者?＞

アカデミー・フランセーズの創立まもなく、フランス国王はルイ14世に変わった。

ルイ14世 (フランス王) 2 人物（Wikipedia）

ここで、ルイ14世の人物像を上ページからいくつか抜粋する。

ルイ14世は「官僚王」（Rois Bureaucratie）と呼ばれるほど非常に政務に精励な国王だった。

狩猟、祝祭そして恋愛といった何事にも精力的に打ち込み、一日中活動しても倦むことはなく、また他人にも同じことを強いた。

婦人に対しては貴婦人から身分の低い洗濯女に対してまで礼儀正しく、自分から帽子に手をふれて会釈をした。細事にまで気を配り、兵卒の訓練や家事にまで関心を持ち、疑い深くスパイを用い他人の手紙を平然と開封した。

ルイ14世は秩序と規律を望んだ。

宮殿での礼拝はもちろんのこと単なる起床や飲料といった宮廷生活の細事ことごとくを厳粛な儀式と化させ、礼儀作法を複雑にして人々にそれを課し、彼らの立ち振る舞いをがんじがらめにした。

ルイ14世はバレエに魅せられ、バレエを奨励していた。

「太陽王」の異名も、元はバレエで太陽（太陽神）に扮したことから生まれた。

ルイ14世には、芸術への関心、細かい気配り、秩序と規律の愛好、といったことに並々ならぬこだわりがあったようだ。アカデミー・フランセーズが数体系の統一を計るとき、ルイ14世が草案を出したのではないかと私は憶測する。ルイ14世の神経質なまでの細かさが、先に述べたような複雑極まる数体系を作ったのではないか。

ルイ14世はこう言ったかも知れない。「フランス語は数の呼び方さえも美しくなる。二本立ての数体系を連続的に変化させ、歌のように複雑になってしまったが、フランス国民は自国語を必ず自在に使いこなしてみせるだろう。その時、フランス国民は教養が高いのだと他国へ誇ることができる」

他国では例を見ない複雑な数体系が現代フランスでも通用しているのは、数学的美意識とは異なる、言語的・音楽的美意識が庶民にも受け入れられたからではないか。

「馬鹿を言ってはいけない。箸の上げ下ろしまで文句を言われたら、窮屈でしょうがない。日本人なら殿様をそこまで持ち上げはしない」と言われるかもしれない。

ここで、丸谷才一のエッセイに登場してもらおう。「夜中の乾杯」（文春文庫）の一節「ロイアル・キス（pp.206－213）」にルイ14世の時代風習が紹介されている。

一体、18世紀のフランス王といふのは、イギリスの王様よりずつと呪術者的なものだつたらしい。あるいは、教祖的といふか。あの国は農業国ですから、農民のあひだに古代信仰が連綿と続いてゐたのでせう。17世紀、18世紀のフランスの王宮は王様その他の生活を見物する見物人で一杯だつたさうですが、多分これは信仰のせい、あるいは信仰の変化形態ではなかつたかと思ふ。（中略）毎日曜の晩餐は公開されることになつてゐて、ルイ14世は死の前週までこれを見物された。（この「された」は受身。）（中略）王妃の化粧と着付も公開だつた。（中略）すごいのは、お産まで公開だつたことで、アンリ4世の二度目の妃、マリー・ド・メジチの分娩については、およそ200人が見物したことがはつきり記録に残つてゐる。そして、人民の目の前で生れた国王は、人民の目の前で死んだ。たとへば、ルイ13世の病状が悪化したとき、民衆は衛兵の制止を押し切つて病室に殺到し、国王は人いきれのなかで息を引取つた。こんな極端なことになるのは、王室に対する忠誠心や親愛感のせいではなかつたらう。それもあつたかもしれないが、もつと別な要素が強烈に作用してたに決つてゐる。わたしはそれを、呪術者である王の生活を見ることで霊的な力を得たいといふ気持、つまり古代信仰の名残りだつたらうと思ふのです。その信仰が裏切られたと感じたとき、フランスの君主制は終つた。イギリスはその信仰をあまり熱烈にしなかつたので、かへつて、君主制がつづいてゐるのでせう。