「バレンタイン流マネジメント」の逆襲 (高木徹著、講談社刊) 千葉ロッテマリーンズの監督、ボビー・バレンタイン
(1995(第1期)、2004-2009(第2期、2009年度を最後に契約打ち切りの見込み))
をNHKが取材し、特集番組を2度放映した
(クローズアップ現代 No.2117 部下の能力を引き出せ 〜躍進ロッテ バレンタイン監督〜(2005/07/21)、
およびクローズアップ現代 No.2160 バレンタイン・マジック 〜ロッテ・日本一の秘密〜(2005/11/02))。
番組には収められなかった取材等の少なからぬ情報を、取材担当の高木徹氏が本書にまとめた。 野球の奥深さは、試合を見るだけでは伝わってこない。
テレビ中継を見ても、球場に行っても、選手や監督が行う駆け引きまでは分からない。
「アンダースロー論」(渡辺俊介著)と同じで、監督の采配の意味は
本書や日刊スポーツの記事を読んで初めて分かった。
(スポーツは「やってみて初めて分かる」ものなので、
スポーツをしない人は選手の考えを予想できない。
私は典型的な「見る専」だった)
読後に試合を見ると、試合を分析し、予想する楽しみが生まれてきた。
各球団で本書のような情報が公開されると、
プロ野球の楽しみ方に新しい道が生まれるかも知れない。 本書を読むと、バレンタインは監督としてスケールの
大きい人物であることが伝わってくる。
選手に、時にはロッテファンにさえ、信者が生まれてしまうのがその証拠だ。
本文を少々紹介する。 「バレンタイン監督は、人を責めることをしませんね。ミスを責めません」(堀幸一) これだけならば、普通の「いい人」「人格者」だろう。
三国志の劉備に例えられるかもしれない。では、これはどうか。 「日替わり打線」と評されたように、レギュラーシーズン同様、 日本シリーズ4試合でも一つとして同じ先発オーダーは組まなかった。 (中略)4番に俊足で長距離打者とはいえないサブローが座り、 チーム一のホームランバッター イ・スンヨプ(2008年現在巨人に在籍)は 7番にいることが多い。(中略) 誰から始まっても点が取れ、更に攻撃が途切れず、輪になって回り続ける仕組みを作る。
それを、相手チームの様子によって、毎試合作り直す。
これは、伝統的な打順理論とは全く異なる戦法だ。
その労力は並大抵のものではない。 自分の勤め先に、人柄が良いと評判が立ち、
常識を疑って新しい理論を作り、
さらには人間集団の力を底上げしてしまう人がどれだけいるだろうか。
バレンタインの言動が面白くて期待してしまう。
期待はバレンタインを中心にして渦を巻く。
渦がますます人々を巻き込んでしまう。 バレンタインは2009年度を最後に、監督を解任される見込みだ。 筆者が危惧した「優秀な人間だからこそ持つ、 強烈な自己顕示欲と独善性」「ワンマン性」(pp.277) が球団フロントの我慢の限界を超えたのではないかと思う。 しかし、こういったことは歴史を振り返れば何度もあった。 典型的な引き合いとして挙げられるのは、坂本龍馬だろう。 坂本龍馬の足跡は、書簡等で断片的にだが見て取れる。 私は、本書や日刊スポーツや試合放送に、野球の一時代を作り続ける 人間が取り上げられるのを貴重なことだと感じている。 |