不定期記事「探索者」

作成日:2008/11/06
最終更新日: 2009/01/01
作成者:しんどうまさゆき

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鉄道趣味の個人サイト等で、2008年に入ってからJR房総ローカル各線(内房線、外房線、総武本線、成田線、鹿島線、東金線)用の車両置き換えが噂されている。車両置き換えについて、私の仮説をまとめておきたい。
(注1、当記事は筆者による予測であり、JR東日本の公式発表ではありません。 また、鉄道の運用は刻々と変化するものであり、当文書及びリンク先の情報が、 最新の状況を常に反映している保証はありません。 当文書およびリンク先での情報を利用したことにより、 何らかの損害を被ったとしても、筆者は一切の責任を負いません。
注2、以下では鉄道車両の形式等の専門用語が出てきます(例、113系リニューアル車)。 用語の詳細についてはWikipediaに詳しく説明されていますのでご参照ください。

wikipedia

<準公式の置き換え発表>
動労千葉(JR東日本千葉支社などの労働者で組織される労働組合)の機関誌で 「2009年度以降、209系を導入」との記事があった。 遅くとも翌々期(2010年3月ころだろう)のダイヤ改正までに、 JR房総ローカル各線用の新車両が登場するのは、ほぼ確実と言える。

日刊動労千葉 No.6717(2008/10/29)

<筆者と内房線とのつきあい>
筆者はJR内房線を日常的に使っている。6歳で初めて電車に乗ってから、 2008年の今までずっと、車両は国鉄113系だった。 通学、通勤等で20年以上利用してきた。
京葉線への直通列車として205系が内房線に現れたときは、 初めて見る通勤形電車の明るい照明やすっきりとした車内に感心した。 総武快速線への直通列車が113系からE217系へ、 そして特急さざなみの一部が183系から255系に置き換えられたとき、 VVVFインバータ制御のモーター音を初めて聞き、 都心と郊外の鉄道車両に隔世の感とも言える違いがあることに衝撃を受けた。
内房線の列車風景や、駅とその周辺の風景は少しづつ変わっていった。 その中で、房総ローカルの車両が置き換えられる気配は全くなかった。

<房総113系の現状>
しかし、鉄道車両を半永久的に使い続けることは、 蒸気機関車等の懐古趣味を除いては通常ありえない。 国鉄113系は経年が長い。古いものは1972-1973年製造(35-36年経過。113系1000番台)、 新しいものでも1979-1982年製造(26-29年経過。113系リニューアル車、2000番台)だ。 実は過去に2回ほど、房総113系は他線区の113系で置き換えられており(旧車を旧車で置き換えている)、 2008年現在、JR東日本に存在する113系は房総地区のもののみである。 古めの113系を新しめの113系で置き換えることは不可能になった。 車両自体は補修をして使い続けることが可能だが (JR西日本では耐用年数40年を目指した113系リニューアル車が走っている)、 根幹の設計が古いため、以下に述べるような必要性から、今度こそ新車両の投入が必要になった。
(房総用113系の車両数等については以下に詳しい。

房総各線 113系 編成表(「THE 総武線」内記事)

<車両置き換えの必要性>
車両置き換えの必要性は2つある。

・地球環境保護
JR東日本では、地球環境保護のため、省エネ車両の比率増加を計画している。
(82%(2008)→86%(2010)が目標。詳細は以下を参照。

地球温暖化防止へ向けたJR東日本の取り組み
(JR東日本−社会環境報告書2008)

2008年現在、大量に残る旧型車両の代表は房総の113系で、300両程度ある。 山手線に使用する車両(E231系500番台)の総数が572両だから、 その膨大さがご理解頂けるのではないだろうか。

・バリアフリー新法への対応
鉄道車両にはバリアフリー新法への対応も求められている。 ドアチャイムの設置、車椅子やオストメイト対応トイレの設置、 車椅子スペースや次駅表示装置の設置、といったものだ。 旧車両を改造して対応してもよいが、大きな手間になる。 なお、バリアフリー新法に対応した車両については以下に詳しい。

公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン(車両等編))平成19年7月 国土交通省)
(国土交通省ホーム − 政策・仕事 − 総合政策
− バリアフリー − バリアフリー整備ガイドライン(旅客施設編・車両等編)

<車両置き換えに対する制約とその解決>
車両置き換えをしようとする場合、制約がいくつかある。

・同一形式での大量置き換えへの対応
113系を300両強、全て置き換えなければならない。 それも、後に述べる理由から、できるだけ同一形式で置き換えるのが望ましい。 最近数年間、JR東日本では都心路線に新車両を次々と投入し、 余剰になった旧車を地方路線に転属させて玉撞き状に車両置き換えを行っている。 2007年から2009年にかけて、京浜東北線には新車両のE233系1000番台を 投入しており、旧車量の209系0番台が余剰となった。 209系0番台は780両ある。車両設計は割合新しく(1991年に登場)、 省エネ対応、バリアフリー対応は113系よりもはるかにしやすい。 さらに、2006年ころから機器更新の時期を迎えていた(経年が13年に達する。 これは設計時に見込んだメンテナンスフリー期間の終了時期だ。 ただし、修繕を全く行っていないわけではない。 また、会計上、鉄道車両の償却期間は13年だ)。 改造を行うにはちょうどいい時期だった。

(備考1、JR東日本の新車投入実績および見込みを以下にまとめておく。)

投入年車両形式投入線区
1998-2000209-500総武・中央緩行線
2000-2003E231-0総武・中央緩行線、常磐線(快速、上野−取手間限定)、成田線(成田−我孫子間)
2000-2006E231-1000東海道本線、湘南新宿ライン、高崎線、宇都宮線
2001-2002E257-0特急 あずさ、かいじ
2002-2005E231-500山手線
2003E231-800総武・中央緩行線(地下鉄東西線乗り入れ)
2004-2005E257-500特急 さざなみ、わかしお、しおさい、あやめ
2005-2007E531常磐線(快速、取手以北乗り入れ)
2006-2007E233-0中央線(快速)
2007キハE130水郡線
2007-2009?E233-1000京浜東北線
2008-?キハE120米坂線、磐越西線、白新線、羽越本線
2009?E233-2000常磐線(各駅停車−地下鉄千代田線乗り入れ)
常磐緩行線(東京メトロ千代田線直通)に新型電車を導入 -E233系直流電車-
(JR東日本プレスリリース)
2009E259特急 成田エクスプレス
成田エクスプレスに新型車両を導入!
(JR東日本プレスリリース)
2009?E233-5000?京葉線
国電総研スペシャル2008
(リンク先サイトにある京葉線への新車投入の情報は、JR東日本の公式発表ではありません)

・分割・併合への対応
113系には、4両編成と6両編成の分割・併合がある (4、6、8(4+4)、10(6+4)両の4通りの編成両数がある)。 異なる形式を連結して走ることは、通常できない。 車体の連結に加えて、ブレーキ管や信号線(ジャンパ栓)の連結が必要だからだ。 新旧車両に、信号線等の互換性はない (旧型車両との共通化は、車両の陳腐化を招くことがあるため、 最近の車両は意図的に互換性をなくしている)。 仮に連結の問題がなくとも、新旧車両が混在すると 乗客サービスの不公平が発生して、営業面で悪影響が出る。 このため、少なくとも連結して運用する車両については車両を統一して、 まとまった数量を一度に置き換える必要がある。

・運用サイクルへの対応
113系は、1日の営業終了後、必ずしも車庫 (房総各線の場合、幕張車両センター)に戻っているわけではない。 房総113系は複数路線にまたがった運用をしている。 各路線は終点まで片道で2時間程度の長距離なので、 各路線の末端およびその付近(銚子、安房鴨川、館山等)で停泊し、 翌日も引き続き営業運用・・・ということを数日繰り返してやっと車庫に戻る。 2008年現在の車両充当計画(車両の運用サイクル)では、 車庫(幕張車両センター)に戻るまで、相当な日数がかかる。

(補足、車両充当計画・・・ 鉄道車両は定期的に検査を受ける必要がある(交番検査等)。 これを実現するため、鉄道車両の1日の全運用は10程度-数十程度のパターンに分割される。 車両は日々、順を追うようにパターンをこなし、全てのパターンを こなしたら最初のパターンに戻って1サイクルするようになっている。 なお、1サイクルのうち数回は車庫に戻るように計画される。 これによって、営業運用からいったん外れ、 工場(房総113系の場合、大宮総合車両センター)へ検査を受けに行く余裕が作れる)

(参考1、房総113系の車両充当計画は以下の調査結果に詳しい。

113系6連運用(「千葉総合車両センター」内記事)

鉄道車両の運用を研究する方以外には情報の見方が分からないと思うので、以下に補足する。 6両編成の1日の全運用は「A1-A12」の12パターンに分割されている。 そのため、1日の運用を全て賄うには最低12編成が必要になる。 幕張車両センターには予備車を含めて13編成が所属している。 (なお、各パターンにある「281M、290M」といった番号は「列車番号」である。 これは、鉄道車両がどの行路(列車が始発駅を出発してから終着駅に到着するまで) に使用されたかを特定するため、行路1つ1つに振られた番号のことだ。 書籍の時刻表をご覧になると、列車番号を確認することができる)

113系4連運用(「千葉総合車両センター」内記事)

4両編成では「A581-A620」の40パターンに分割されている。 そのため、1日の運用を全て賄うには最低40編成が必要になる。 幕張車両センターには予備車を含めて44編成が所属している。

ご覧になると、幕張車両センターに戻る 回数の少なさに驚かれるかもしれない。

もう1つ、以下もご覧いただきたい。

211系運用(「千葉総合車両センター」内記事)

これは最近房総ローカルで目にするようになった、211系3000番台の運用である。 導入から日が浅いが、早くも置き換えられる見込みだ。 (注、高崎線の211系3000番台に余剰が発生したため、 2006年に高崎から房総へ転属してきた。 寒冷地対応の車両なので、群馬県(高崎以北)、長野県、新潟県のいずれかに再転属して、 115系の置き換えに使うのが望ましい。 209系は寒冷地非対応の車両なので、房総で使うのが経営的には賢い) 211系 5両編成では「A301-A314」の14パターンに分割されている。 そのため、1日の運用を全て賄うには最低13編成が必要になる。 幕張車両センターには予備車を含めて14編成が所属している。 (注、A301(午前のみ運転)とA302(午後のみ運転)は実際には一続きの運用で、 原則として同じ日に同じ編成を使用しているため、 実質13運用のサイクルを13+1本(予備車1本)で回転させている))

(備考2、比較のために言うと、京葉線の車両は京葉線内限定の運用が多いため、 もっと頻繁に車庫(京葉車両センター。幕張車両センターとは別管理)に戻っている。 京葉線の車両充当計画については以下の調査結果に詳しい。

港南ターミナル・鉄道ページ(「港南ターミナル・鉄道乗り場」内記事)

以上から、車両を1編成だけ置き換えても、その後が問題になる。 先ほどの分割・併合の問題がからむからだ。 同形式での分割・併合を守るには、幕張車両センターを出てから 戻るまでのより小さな1サイクルに注目し、 小サイクル単位で新車と旧車の運用を住み分けすると、 車両の置き換え上都合がよい。

<まとめ−209系を投入する理由>
以下に新車投入の理由や解決すべき制約をまとめる。

【新車投入の理由】 【車両置き換えの際、解決すべき制約】

<置き換え予測>
以下に、113系を209系に置き換える予定を予測してみた。 筆者は、置き換えを一度に全て行うことはなく、 4回に分けて行うだろうと考えている。 各回をグループA〜グループDと名付けてみた。
(注1、以下の文中に現れる運用番号(A584、A12等の番号)は 「千葉総合車両センター」中記事にあるものを利用しています)
(注2、時刻表(特定の駅の発車時刻表ではなく、書籍の時刻表)をお求めになり、 置き換えされる運用番号に乗っている列車番号(1121M、154Mなどの番号)を 探してマーカー等で色つけをすると、置き換えされる列車が何時何分に走るのか、 直感的に分かりやすく見えてきます。 当文書を読むだけでは普通イメージが湧きませんので、この作業をお薦め致します)

−−−グループA−−−
(グループAは、主に内房線、外房線を走る4+4連の運用。
内房線、外房線、東金線の運用のうち、全体の40%ほどが209系に置き換わる)

<置き換え対象>
113系1000番台後期車 4連×19編成
→209系 4連×19編成

<運用の変化>
A584後半-A592前半、A608後半-A616前半の運用を置き換え。
18運用のサイクルを4連 18+1本(予備車1本)で回転させる。

−−−グループB−−−
(グループBは、主に内房線、外房線を走る6+4連の運用。
内房線、外房線、東金線の運用のうち、全体の40%ほどが209系に置き換わる)

<置き換え対象>
113系2000番台 4連×7編成
113系リニューアル車 4連×5編成
→209系 4連×12編成

113系6連 13編成
→209系 6連×13編成

<運用の変化>
A592後半-A599、A616後半-A618前半の運用を置き換え。
11運用のサイクルを4連 11+1本(予備車1本)で回転させる。

A1-A12の運用を置き換え。
12運用のサイクルを6連 12+1本(予備車1本)で回転させる。

(グループAとグループBは、車両運用がつながる。
グループAとグループBを両方置き換えた場合、
4連は18+11運用→18+(11-2)運用→27運用
となり、(18+1)+(9+1)本→29本(予備車2本)で回転できる。
ただし、4連は大多数が4+4連で運用されているので、
予備車は40運用について4編成(4+4連 2本)あったほうが無難だろう)

−−−グループC−−−
(グループCは、総武本線、成田線、鹿島線を走る、4連と4+4連の運用。
総武本線、成田線、鹿島線から113系が消滅する)

<置き換え対象>
113系2000番台 4連×14編成
→209系 4連×14編成

<運用の変化>
A581-A584前半、A600-A608前半、A618後半-A620の運用を置き換え。
16運用のサイクルを4連 14+1本(予備車1本)で回転させる。

(グループAとグループCは、車両運用がつながる。
グループAとグループCを両方置き換えた場合、
18+16運用→18+(16-2)運用→32運用
となり、(18+1)+(14+1)本→34本(予備車2本)で回転できる。
ただし、4連は大多数が4+4連で運用されているので、
予備車は40運用について4編成(4+4連 2本)あったほうが無難だろう)

−−−グループD−−−
(グループDは、主に総武本線、成田線を走る、211系 5連の運用)

<置き換え対象>
211系3000番台 5連×14編成
→209系 6連×12編成、4連×2編成

<運用の変化>
A301-A314運用を置き換え。
14運用のサイクルを6連 12+1本(予備車1本)、4連 2+1本(予備車1本)で回転させる。 (注、211系5連には、5+5連で走る運用がある。209系に置き換える際、 6+4連で代替すると筆者は予測している。この予測の通りになると、 終電近くの列車が一部、5連から4連になってしまい、混雑がひどくなる おそれがある。この辺は運用サイクルを見直した上で、6連にするかもしれない)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<置き換えの順番>
209系の房総への転属は、1年で1グループを置き換えることで、4年かかるだろう。 しかし、グループA〜グループDをどの順番で行うかは筆者も決めかねる。 どの順番でも特に大きな問題はないように思うからだ。 2008/12/25現在、運用を離脱した209系0番台は編成を短縮されて 各地に疎開されている。4両編成が14本確認されているので、 グループAまたはグループCが先に置き換わるのではないか (注、この他、6両編成が3本疎開されているが、南武線に転属する模様)。

209系の転属に関わる車両動向については以下に詳しい。

209系置き換えの記録(「4号車の5号車寄り」中記事)

<編集後記>
2009年度には京浜東北線の車両がE233系に全て替わり、209系0番台は引退する。 時代が止まったような房総ローカル各線に、現在生産中のE233系と同じ、 無音に近いIGBT-VVVF制御の列車が押し寄せるとは少々信じがたい。 黙って待てば、事実がやってくる。しかし、それまでにあれこれと 読みを凝らすのは面白い。今後も新車の投入により、車両の転属は他線でも 次々発生する(京葉線の車両も様変わりするはずだ)ので、 これを機会に千葉県在住の方が鉄道車両の趣味をお持ちになるのも 一興だと筆者は考える。

余談だが、2009/03から、房総各線の単線区間にもSuicaが導入されることになった。 また、東京近郊区間が拡大され、房総各線は全線、東京近郊区間内になる。

Suicaをご利用できるエリアが広がります(JR東日本 プレスリリース)

Suicaのエリア拡大により、特急で館山・安房鴨川・銚子に向かう方々には便利になる(精算の手間が不要になる)。東京近郊区間の拡大により、ホリデーパスの使用範囲が広がったり、初乗り運賃での房総半島一周(大回り乗車)が可能になるかもしれない。長距離を乗る方には大きな変化だ。

(制作にあたり、211系の運用の詳細について、 NB-00編成様(「千葉総合車両センター」サイト管理者)よりご指摘をいただきました。 この場にて感謝申し上げます)