不定期記事「探索者」

作成日:2000/08/05
最終更新日: 2008/10/27
作成者:しんどうまさゆき

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計算機は表計算ソフトよりも優れていることがある。

2000/06から2ヶ月間やっていたアルバイトで、 そういうことに気づいた。 私の作業は、倉庫から出庫した荷物を10トントラックに積み込む作業だった。 倉庫の品物はパレットごとトラックに積まれることがよくある。 だが、今回のアルバイトの場合個々の荷物が小さいので(ゆうパック程度)、 フォークリフトでパレットを持ち上げて、いったん荷物を降ろす。 そしてトラックの荷室に詰めていく。

荷物は10トンを越えることがよくあった。 そのため、荷物の種類別、送り先別 (正確には集配センター別)に重量を計算し、積み込み量の配分をした。 最初は表計算ソフト(Excel 2000)を使っていた。 だが、監督の方から「計算が遅い。正確さはあまり必要じゃないから、 速くやってくれ。これからは計算機でやって」と言われた。

なぜ私は「計算が遅い」と言われたのか。 それは誤入力の有無を調べたからである。 表計算ソフトは、一度計算式を設定すると、それを後々まで使い回せる。 荷物の重量計算の場合、荷物A, B, C, ...の1個の重量と計算式 (1個の重量×個数)を設定すればよい。 あとは日々変わる個数を入力すればいいだけだ。

だが、ここで油断して計算ミスが起きる。 表計算ソフトで作業をすると、 隣り合ったマスに数字を打ち込んでしまうことがある。ソフトは誤入力と 正しい入力を判断できないので、機械的に計算してしまう。 100〜200kg違う場合もある。荷物が10トンめいっぱいの時には困ってしまう。

これに対して、計算機を使うとどうか。 前述した誤入力は起こらない。 誤入力をしたら「C」(クリアー)ボタンを押せばよい。 荷物Xの計算はやりなおしになるが、それだけだ。他に気を遣う必要はない。 また、総合計を出すときには、メモリー計算を使えばよい。 計算機の「M+」と書いてあるボタンがそれだ。 まず、メモリー計算をする前に「MC」ボタンを押して、 以前行ったメモリー計算の結果を消去する(0にする)。 それから本番開始である。たとえば149と入力し「M+」ボタンを押すと、 149が0に足される。次に1400と入力し「M+」ボタンを押すと、 1400が149に足される。そして、14.4×130を計算し「M+」ボタンを押すと、 計算結果の1872が149+1400に足される。 最後に「MR」ボタンを押すと、総合計の3382が出る。 よかった、3トンだ。まだ他の倉庫に行っても積める。

こういう意味で、表計算は便利だが、諸刃の剣でもある。 利用者は神経がすり減る。「超・整理法」の著者、野口悠紀雄氏も 言っているが、「ある目的を達成できるのなら、しくみが単純なものほど 優れている」。この場合、電卓の勝利だろう。

ところで、もし電卓が優れているのなら、 義務教育で表計算ソフトの操作だけを教えるのはまずいだろう。 このような「入力チェック」の 必要性と、入力チェックのしかたを教えるのが妥当ではないか。 (たとえば、100件のデータを入力するときには10件ごとにチェックを行う、など) また、時として計算機が優れていることを教えるべきでないか。 小学校にそろばんの教育だけで済ませていいのか。 電卓のメモリー計算や、関数電卓の使い方を身につける必要がないだろうか。 (このアルバイトで一緒になった方の一人が、 「アメリカの大学生は専攻に関係なく関数電卓を使える」と言った。 この方はアメリカでMBAの勉強をしている最中だそうだ。 基礎教育がしっかりしていると思える)

入力チェックについて1つ付け足したい。 私は、プログラム作成の仕事をして、チェックの必要性を体で覚えた。 たとえば、給与計算ソフトで金額を入れるべき箇所に、ひらがなや漢字が 入っていたらどういう処理をするか。何もしないと、プログラムは 入力されたデータをそのまま記憶しようとする。だが、数字を記憶する 領域に文字が入るため、プログラムが異常終了する。もしくは0を とりあえず記憶してしまう。実務のプログラミングでは、 こういう例外処理に対応する必要がある。たとえば、 警告メッセージを表示し、保存を受け付けないようにする。 異常終了を回避することと、利用者の間違いを指摘するのが目的だ。 有り体に言えば「安定して動く」 「異常終了しない」ソフトを作ることがまず必要だ。 これはプログラミングの初歩の初歩である。

おかげで、車を運転するときにも 「やりすぎじゃないの?」と言われるような確認をしてしまうことがある。 たとえば、閉まっている助手席のドアをいったん開けてから閉め、ロックをする。 半ドアが怖いからである。閉まったことを確認して車を離れ、 涼しいところでお茶を飲みに行く。これはもう職業病だ。

私は2000/06に初級シスアド試験に受かった。 資格を取ったからには、こういうことに注意してコンピュータの 操作指導などを行いたいと思っている。 短い期間だったが、プログラマーをやってよかったと思う。 (そういえば、先に登場したMBAの学生さんによると、 アメリカの大学生は必ずプログラミングの初歩を習っているそうだ。 ここまでくれば驚くしかない。他には「やさしいビジネス英語」 2000/08号(NHK出版、石澤靖治、p184)の記事を見て驚いた。 「アメリカでは企業内教育が日本ほど親切でないため、 大学院で職業訓練をするのが普通だ」とのことである。 「日本では実力主義の評価を取り入れたために、社内教育が 崩壊した。大学院での職業訓練は広まっていないため、 外での教育も受けられない」とも述べていた。 今の20代にはたいへん苦しい時代だと言うことだ)